バアル神

バアル神像 引用:https://en.wikipedia.org/wiki/Baal

前回、龍について浅い考察をさせていただきましたが、今回はそれに関連があるんではないかと思いまして、バアル神について考察していきたいと思います。

バアル神とは?

バアル神は、古代オリエント地方、特にカナン地域で広く信仰された水や雷、天候を司る雄牛を象徴する神様であり、主神として崇められていました。現在のシリアとか東地中海のあのあたりですね。確認できる中では、この地域でBC1800年からBC1200年頃まで栄えたウガリット王国の古代文書「ウガリット神話」に出てきたのが最初だと言われています。

ウガリット王国はBC1200年ごろにオリエント地方を襲ったカタストロフに加え、それに乗じた海の民の侵入により滅ぼされたと言いますが、バアル神の信仰はその後も根強く、それはこの地域を超え西はギリシアなどのヨーロッパ、東はインド中国を越え、朝鮮半島や日本まで信仰の伝播が見て取れます。

ユダヤ人入植後

by CECIL B. DEMILLE
“The Ten Commandments”
引用:https://freerepublic.com/focus/f-religion/3866521/posts

ウガリット王国が滅んで後、奴隷状態に陥れられていたエジプトからモーセに率いられてユダヤ人がカナンに入植してきました。バアル神は当地で依然根強く信仰されていましたが、それに対してユダヤ人は対抗する神様をぶつけてきました。それが名前をみだりにその名を発してはいけないあの神様、ヤハウェです。

聖書では徹底的にバアル神が貶されています。他所から入植してきたユダヤ人にとっては生き残るための戦略としてその地の信仰から真っ向否定することが理にかなっていたのでしょうか?

事実当時は中東全体が気候変動した時期でした。今まで湿潤だったのが乾燥砂漠化していったのです。事実ウガリット王国が滅びたのもそれが大きな原因だったのかもしれません。

そういった訳で、水の神であり農業の神とも言える雄牛の神のバアル神がこの地で失墜するのも時間の問題だったかもしれません。また牧畜などを生業とする遊牧民であるユダヤ人にとっては乾燥した環境の方が都合が良く、躍進するチャンスだったのでしょう。

ユダヤ人は積極的にヤハウェに仮託してバアル神を貶めました。偉大なるバアルという意味のバアルゼルブを少し変えバアルゼブブ(蠅のバアルの意味)と言ってみたり、徹底的にバアル神を貶め、悪魔扱いにしました。

しかしそれはこの地で未だに強力にバアル神が信仰されていたからということもありました。むしろ、ユダヤ人自身がバアル神を積極的に信仰していたこともわかっています。建国された当初、ユダヤ王国ではダビデやソロモン王などはバアル神を普通に信仰していました。

まだユダヤ王国が万全の時代は良かったのですが、ユダヤ人は黄金期を過ぎると試練が待ち構えていました。ユダヤ王国は滅ぼされ、北の10支族と南の2支族に分かれアッシリアや新バビロニア王国に立て続けに彼の地を追われ奴隷として連行されるという捕囚が怒っています。

それ故、こうした不幸の中でユダヤ民族を一つにまとめるためにも当時まだ強力に信仰されていたバアル神打倒が必要だったようです。

先にバアル神は農耕に関連した雄牛の神と言いました。聖書にもモーセが神から十戒をシナイ山で授かり、下山した時に民衆は雄牛を象ったバアル神像を掲げ祀っている有名なシーンがありました。ヤハウェは罰を与えますが、ヤハウェ自身も自身を雄牛の神と称しています。

これはどういうことなんでしょうか?

聖書における雄牛と龍

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結局、ヤハウェ自身も自身を雄牛の神になぞらえています。そして蛇やドラゴンは悪魔の使いだったり化身扱いです。バアル神も雄牛の神だったはずです。ただ、バアル神の性格として龍神によく見られる水の神だったりの要素もあり、確実にバアル神は龍神も兼ねているようです。

では雄牛の神がヤハウェでバアルが龍神かといえばそうでもありません。確かにバアルは聖書的には龍神や雄牛どころか蠅の王などと揶揄されていますが、一般的には雄牛の神として信仰され農耕や軍事を司る神とされていました。これは遠く東に伝播し、日本では牛頭天王こと素戔嗚尊として現れます。

つまりヤハウェは、或いはユダヤ人は、バアル神は偽物で自分たちの神様こそが本当の雄牛の神なのだと言っているよなものなのです。

西洋と東洋における竜と雄牛の戦い

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高橋克彦氏の小説「竜の棺」では、世界の神話における竜と雄牛の神の勢力争いの秘密が明かされています。重厚で説得力がありとても面白かったと記憶しています。高橋氏の視点は大変興味深いところですが私もそこを私なりに考えたいと思います。

 何でオリエントを含む西洋では雄牛が優勢で中国や日本では雄牛よりどちらかというと龍神信仰が盛んなのでしょうか?

もちろん日本ではご存知の通り民間伝承では竜神の登場回数こそ多いものの実は古事記や日本書紀にも八岐大蛇として成敗される側しか出てきません。八岐大蛇は文字通り牛頭天王こと素戔嗚命に成敗される訳で、そう見ると雄牛の方が優勢と言えるかもしれませんが実感として竜神の方がメジャーな感じがしますし、中国では間違いなく龍神でしょう。皇帝のシンボルでもありますし。

東西の竜の扱いの違いは実は文明の発生した河の環境にあったのです。次回はその辺について考察していきたいと思います。

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